フリーランスの履歴書と個人情報のお話ですが、結構複雑です。

今年(2020年です。今日は2020年3月18日)も確定申告の季節が終わり…ませんね。 新型コロナウイルス感染症の流行に対する対策として、申告の期限が延びたようです。 当事務所は、早めに申告を終わらせましたので、幸いにも他人事です。
この確定申告の書類で驚いたのですが、性別を書かせる欄があるのですよ。 当事務所は法人ではなく、個人事業なので性別があります。
でも国税庁さん、納税と性別、関係ないですよね?

確定申告書Aの見本

女性だったら免税とかあるんですか?

たしかに住所と生年月日くらいは、IDとして必要かもしれないです。 個人を特定するキーとして。 でも国税で、女性なら免税とか軽減税率適用とかないじゃないですか。
大昔の日本の税制、「租庸調」のうち庸と調は対象が男性のみだったそうです。 でも現代日本の所得税の申告書で申告者の性別をわざわざ書かせるのは、どういう理由なのでしょうか。 飛鳥時代の人頭税の名残ですか?
よしんば性別の情報が(将来)必要(になるかもしれないの)だとしても、名前と個人番号書いてるんだから、役所で調べて個人情報は補ってくださいよ。

個人情報といえば、フリーランスの在宅翻訳者も、駆け出しのうちは履歴書を出さないとなかなか仕事をつかめません。
(出したってトライアルという試験にパスしないと仕事はつかめません。 さらに、日本ではフリーランスになって3年くらい生き残っていないと、普通はトライアルさえ受けさせてもらえません。)
翻訳の専門学校を卒業して、そこの先生を通じていいコネがあると履歴書など要らないのかもしれませんが、私は翻訳の学校に通ったことがないので実態は知りません。

私も実際に何件かアメリカ流の履歴書(英語ではResumeと言います)を作りました。 実は今月も、既に2件ほど提出しています。
このアメリカ流の履歴書ですが、応募者の顔写真など論外です。 性別も生年月日も家族構成も書いてはいけません。
学歴は最終学歴か、学位を持っているときのバックグラウンドとして書きます。

以前勤務していた日本の自動車製造会社のアメリカの製造子会社の立ち上げに、調達部門の者として関わったときの経験があります。 もう15年以上前の話なので、いいでしょう。 現地法人の社長(日本の本社から行った人です)が、現地でアメリカ人スタッフを採用する時、面接で年齢を訊いてしまっていました。 後で現地採用された総務人事担当のマネージャに教えてもらったのですが、あれはマズかったらしいです。 その仕事を遂行できるかどうか、会社に損害を与えることがなさそうか、それだけが問題なので、それに関係のない年齢などは聞いてはいけないのだそうです。 もっともですね。

日本のデファクトスタンダードな履歴書なんて、写真はあって当然。 性別も書かせます。 生年月日、もちろん必須です。 既婚かどうか、扶養家族の人数まで書かせます。
学歴なんて義務教育終了時点から書かせます。 失敗に終わった再就職活動の時に、そのように習いました。

あれは、あくまでもデファクトスタンダードだそうで、JISでは関係ないそうです。
学歴は必要なのでしょうが、配偶者がいるかとか、家族の人数を書かせるというのは基本的にふざけていると思います。 そんなこと、その仕事ができるかどうかと関係ないですよね。 特に翻訳者では。

私は2016年に30年勤務した自動車製造会社を退職してハローワークに通いました。 ありていに言って、再就職活動をしたわけです。
ハローワークには、様々な求人があります。 余談ですが、私は僧侶の求人票を見ました。 勤務地は東京都内でした。 時間外勤務も多少はあるようでした。
人手不足で様々な求人がたくさんあると言っても現実は厳しいものでした。 いくら年齢不問、経験不問と言っても、資格や経験が募集要項を満たしたことを確認してハローワークや東京都の東京しごとセンターを通して応募しても、履歴書を送っても誰も面接に呼んでもくれなかったです。
これはもう、厚生労働省に叱られるからそうとははっきり言えないけど私の顔(日本では、履歴書には写真を添付するのが当然ということになっています)あるいは名前か年齢が気に食わないとしか思えない。
会ってみたら態度が悪かったというのなら話は別ですが、そもそも面接にも呼んでくれないのですから、そういうことなのでしょう。 顔か名前か年齢が気に食わなかったのです。

そんなことないというのなら、なお悪いです。 ハローワークに求人を出すのはタダですから、無料で個人情報を収集しているとしか思えません。 いい歳こいてから改めて書いてみればわかりますが、日本のデファクトスタンダードの履歴書は個人情報の宝庫です。
再就職活動期間に、ハローワーク求人に応募したドバイから来ていた謎のコンサルティング業のビジネスマンが経営している港区の会社(社長ひとりの会社でした)に、いいように利用されたことがあります。 前職の自動車業界についてのレポートを出せと言われたのです。 まあ内定がほしいので結構内部情報的なレポートを出しましたが、結局そのドバイから来た社長さんは、面接には呼んでくれませんでした。
私はそれ以後、零細コンサルティングファームを信じないことにしました。
ハローワークの職員さんに聞いたら、この会社はずっと求人票を出しているがまだ一人も採用していないということでした。 年齢不問、経験不問、在宅勤務可、給与高い求人だったので、定期的に50代以上の求職者が応募していたそうです。

昨年(2019年)の夏に外注業者として登録していただいた取引先様(アメリカに本部がある翻訳会社です)と契約するときは、身元保証人のようなものの名前と肩書と連絡先を出せと言われました。
プロフェッショナルリファレンスと呼ぶようです。
ちょっと前まで日本の自動車会社のサラリーマンで、翻訳者としては駆け出しな私には、これはちょっとキツい要求です。
保証人のような知人の連絡先をアメリカに本部がある会社に教えて、直接英語で問い合わせなどされると困ります。 知人に非常な迷惑がかかるので勘弁してと抵抗しました。
でも、ベンダー管理の担当者さんからは、「もう、絶対に連絡取らないから。 記録上のために一人だけでいいから、出して。 書類を埋めるだけだから。決まりなのよ。 ルール。」と言われました。
これも、アメリカ特有の昔からの名残でしょう。

それから、大学の卒業証明書(当然英文です)の写しを提出しろと言われました。
これは、学歴詐称を許さないということだろうと思います。
この会社の品質保証のルールなのです。 (簡単に言うと、翻訳のプロとしてのそれなりの実績がなければ、せめて大学を卒業して学位くらいは取っているよね?ということです。)
卒業した大学が、経営破綻や統廃合などで現在世界から姿を消していたら、どうするのでしょうか。 結構こわいです。

先日、アメリカの銀行(とても有名な銀行です)の個人情報の取り扱いについてのお仕事を受注しましたが、
受注する条件として、私自身のバックグラウンドチェックというものをされました。
身元がはっきりしない人間には、銀行のシステムや書類にアクセスさせないということです。

但し、その仕事を発注してくれた翻訳会社の担当者には見られないように、バックグラウンドチェックそのものは第三者の専門の企業と私の間でやりとりをしました。

フルネーム、生年月日はもちろん、生まれたときの名前(つまり「名前を変えていないか」ということ)、
生まれた国と地方、国籍、現住所、いつからそこに住んでいるか、現住所の前の住所、(但し、現住所に転居したのが5年以上前であれば前の住所を記入する必要なし。)犯罪を犯していないか、職歴。 こういった個人情報を提出して、相違ありませんと署名をします。

現住所に何年前から住んでいるかという情報が必須で、それが長ければ前住所は申告する必要がないというのです。
なるほど、同じところにずっと住んでいるというのも「信用」の一部なんですね。

同時に、特別永住者の人とか、犯罪歴がある人とか、二重国籍の人とかは、こういう機会のたびにちょっとずつ嫌な思いをするんだろうな、としみじみと感じました。 事実なんだから聞かれれば答えるよ、と全然気にしない人もいるのでしょうけれど。

しかし、注意しておいた方が良いことがあります。
グローバルなビジネスの世界では、同じ会社にずっと勤めているというのは信用的にはマイナスでしかありません。 日本でも、ミドルやシニア世代の転職とか再就職の時、社会人になってからひとつの会社に勤めたキャリアしかないとしたら、本人にとっては不利なだけです。 「このひとは転職ひとつ経験しないでこの歳になっちゃったのか!」という評価をされます。
海外では、転職の経験のひとつもないと、怪しまれますよ。(いいすぎです。)

それから、この銀行系のお仕事にまつわるバックグラウンドチェックですが、ついには社会保障番号まで必須で書かなければなりませんでした。
社会保障番号というのはアメリカのsocial security numberのことです。
おそらく日本では個人番号(いわゆるマイナンバー)がアメリカの社会保障番号に該当するのだろうと判断しました。 判断しましたが、しかし、本邦の個人番号はやたらに他人に教えるな見せるなと教育されています。 抵抗があります。 最終的には、とっさに別の番号を記入して書類を提出しました。
何を使ったかは、個人情報なのでこの記事をお読みのお客様には教えません。(笑)

とりとめのないこの記事の締めくくりとしては、ヨーロッパで履歴書に顔写真を付けるかどうか、というお話です。 こんな記事を見つけました。
調査の結果、

写真を付ける:ドイツ、フランス、イタリア、ポーランドなど
写真は付けない: イギリス、ロシア、オランダなど

ちなみに、ヨーロッパでは履歴書のことをCVとかC/Vと呼びます。

2017年9月に出来た、redditの「ヨーロッパのことはヨーロッパ人に聞け」的スレッドです。

Job Applications in the EU – Photo on CV, or not?
byu/jschundpeter inAskEurope