本日は2021年11月28日、天気は快晴。
最近、「短いトレーニング」という名の内部のテストに合格して、ついにIT系のしごとをまとまって受注できるようになりました。
表題にあるように、MTPEのしごとです。MTPEというのはマシントランスレーションのポストエディットです。機械が翻訳するけど、ときどき(頻繁にかもしれない)間違えるので、事後的に編集して機械がやった誤訳を修正します。ソースクライアントと合意したスタイルガイドがあるのですが、機械はソースクライアントとの合意事項を気にしない自由人なので、誰かがまとめて書き方を直さなければなりません。


つまり、翻訳するのは機械で、私はそれをチェックしてポストエディットしているわけです。


Creative Editor Guy Illustration

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分野はIT系です。
但し、内容はソフトウェアや「アプリ」のリスティング広告です。

それにしても、IT系のテキストは嫌いでも苦手でもないつもりなのですが、リスティング広告の仕事は飽きますね。
仕事なんだから飽きずにやれよ、「飽きない(商い)」っていうだろと「時蕎麦」みたいなツッコミが聞こえてきそうですけど。でも、これは私にとってはかなり異常な事態なんですよ。

企業の決算説明資料でも、学術論文でも、都道府県市町村の観光資源のPR資料でも、鉄道会社の臨時ダイヤを伝えるポスターでも、原稿を読むのは楽しいし、苦になりません。(当然です。原稿などを読むのが苦痛では、フリーランスの翻訳者など務まりません。)
忙しくてとても仕事など受けられなくても、問い合わせや引き合いが来るととりあえず原稿を読んでしまうくらいです。テキストを読むのは楽しいです。
通常は。

それが、リスティング広告(英語です)は段々と読むだけでも苦行になってきます。似たような文章が延々と出てくるからです。リスティング広告の世界は、オリジナリティの問題ではないし、文章の上手い下手もあまり問題でないのです。

「業界リーダーです」とか、「クラウドベースのセキュアなプラットフォームです」とか、「award-winningなモバイル・ファーストのソフトウェア・スイートでディープなインサイトを取得しましょう」とか。ふんわりとした言葉の3密状態です。製品が変わっても、開発者が変わっても、同じようなことが書いてあります。
SEOの都合なのでしょうが、冗長ですし、売り文句や機能やターゲット市場が、羅列の順番を変えるだけでひたすら繰り返されます。だから、人間が読むと、単調に感じられます。テキストを読むのが大好きな私が飽きてしまうくらいですから、重症です。

それから、不親切で完結していない文章や誤字脱字が平気であります。専門用語なのか、文章が下手なだけなのか、わかりにくいです。
誤字脱字なのかが一見してわかりにくいと、非常に手間がかかります。こちらの生産性に響くと、フリーランス的には死活問題です。翻訳者だって生活がかかっているのですから、こういう傾向はやる気が削がれますね。天職だけど、遊びでやってるんじゃないんだぞ。



あまり露骨に言ってはなんですが、書く人の意識の問題だと思います。
「所詮リスティング広告」
「真面目に隅々まで読むほどヒマな人など何人もいないし」
「重要なのは検索に対してヒットすることだろう。人間よりも検索エンジンの方が大事なんだ」
そういうことを考えて書いていますね。
ある程度のかさ増しは避けられないですし。(Googleさんは、短いテキストしか書いていないWebページに冷たいらしい)

だから読む方はリスティング広告に飽きるのです。(人間はね。機械は飽きません。機械翻訳の機械やAIは飽きません。検索エンジンも飽きません。)

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でもその中にときどきMicrosoftのアプリケーションやAdobeのアプリケーションがあると、やはり全然違います。私は別にMicrosoftとAdobeのファンではありませんが、さすがに彼らのところの社員が書く広告は、比較的わかりやすいし誤字脱字もないし、レベルが違います。翻訳しやすいです。
実際問題としてはMicrosoftやAdobeの正社員がリスティング広告の文章を書くことはないのかもしれません。でも、社外の広告代理店の正社員様が書いているとしても、MicrosoftやAdobeの正社員とその上司が決裁しないと出稿しないでしょう。だから、MicrosoftやAdobeの正社員が責任を持っているのだから、彼らが書いているも同然です。
MicrosoftやAdobeの社員は、高給取りだし間違いだらけの文章を書いていては上司に怒られますからね。緊張感が違うのでしょう。

ところで、飽き飽きしちゃう冗長な広告文(英語)の例に出てきたaward-winningという語は和訳しづらいですねえ。
このプロジェクトの日本語スタイルガイドにも、
「このまま直訳っぽく『受賞歴がある』などと和訳してはいけません。『定評がある』程度にしておくように。」
と指示されていました。
たぶん、受賞歴などというのは、出任せなのでしょう。英語文化圏では「たとえばどんな賞?」とか追求しないことになっているのだと思います。
日本語で「お客様に寄り添う」とか「自分軸」とか「背中を押す」とか「あなたらしく」とか書くのと同じです。みんながそんなことを書いているから、同じことを書いているだけです。

キモチワルイですね

体調不良の女性の写真

 

 

でも、誰も給料を払ってくれないフリーランスですから、飽き飽きするほど大量のしごとに恵まれているのは何よりもありがたいことです。

ときどき、教会管理の専用のクラウドベースのアプリとか、NPOの寄付金や支部を管理できる専用モバイル・アプリとかと遭遇することもありますしね。そういうときは楽しいです。
こんなに楽しい商売は他にないですよ。