私の稼業はトラブル(ではない)
今日は2023年7月16日、個人の翻訳事務所ヒノトリホンヤクの本店がある東京都日野市は、いま、おおむね晴れ。ちょっと雲あり。予想最高気温、37℃。
37℃。
なんですかそれ? 笑
実は笑い事ではなくて、ヒノトリホンヤクの代表(私のことです)は暑いのが苦手なのです。困ります。
さらに笑い事でないのは、現実に自宅兼事務所で常時使用していたMacBook Pro (2019年モデル)があまりの猛暑に機能不全を起こしてしまいました。熱暴走でネットワーク系が起動直後におかしくなります。有線のEthernetも無線のWi-Fiもどちらもダメなので、ちょっと重症です。
事務所(コワーキングスペース)のロッカーに置いてある別のMacBook Proが健在なので、ビジネス継続という意味ではセーフです。
さて、今月のお題は、私の職業の呼び名です。
起業したときに、Googleマイビジネスに登録しました。Googleでは「翻訳家」を選択するしかありませんでした。(本人としては、「翻訳業」などにしておきたかったのです。翻訳家なんて、照れくさいというか、くすぐったいじゃないですか)
実際に「プロの翻訳業のひと」になってみると、LinkedInの日本語ユーザーでも、「通訳翻訳ジャーナル」誌でも、あの「翻訳者ネットワーク アメリア」でも翻訳家を自称しているひとなんてほぼいません。アメリアなんて、最初から「翻訳者」のネットワークですからね。
だから、現代でプロの翻訳業の人になってみると(なるだけなら、資格もいらないのです。誰でもなれます。さいきん、「王と名乗れば王」という台詞がありましたが、「プロの翻訳業の人と名乗ればプロの翻訳業の人」です。)同業者はみんな「翻訳者」を自称しています。
どっちを向いても翻訳者。どっちを向いても宇宙。どっちを向いても未来。
郷に入っては郷に従えと言います。自分が「翻訳家です」と自称するよりは「翻訳者」の方がいくらかマシなのも事実です。
ただ、アヤシイのは「産業翻訳者」という職業分類なのですねえ。
なんだか語感がヘンですよ。昔は無かった最近の職業だから違和感を与えるのも仕方ないのでしょうけれど…………。
でも「産業翻訳者です」って翻訳業界の外に出たら、通じますか? 通じるですって?
ははは、私は信じませんよ。
翻訳業のひとって、言葉のコミュニケーションのプロフェッショナルでしょ。 自分たちの肩書きというか呼び名について、そういう雑な扱いをしていていいんでしょうかね?
LinkedInでも、職業欄に”Industrial translator”って書いている人が結構いるんですよね。でもそれ、日本人のtranslatorのLinkedInユーザーしか使ってないみたいなんですけど…。
うさんくさいです。
LinkedInではさすがにいないけど、ときどき「フリーの翻訳者」という古臭い肩書を堂々と自称している人もいますね。「無料で翻訳をしてくれる人」という印象を持ちますよ。余計なお世話だが、おかしいです。
「翻訳家」なのか「翻訳者」なのか、厚生労働省の職業分類でもゆれまくってますよ。
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/87
列挙してみましょうか。まずは「家」系。
格闘家
書道家
陶芸家
声楽家
音楽家
画家
マンガ家
落語家(噺家)
実業家
投資家
写真家(カメラマン、フォトグラファー)
柔道家
政治家
小説家
起業家
家庭料理研究家
脚本家
演出家
舞台芸術家
発明家
建築家
次は「者」系。 忍者はやめておきます。それを言ったら影武者とか間者とか、キリがない。
私は「翻訳者」なのでしょうか。
研究者
社会学者
科学者
失業者
編集者
経営者(???これは職業じゃない?)
スポーツ競技指導者
通訳者
役者(俳優って呼ばなきゃだめ?)
次は「人」系。…芸能人? それはちょっと保留。
詩人
俳人
歌人
料理人(調理師)
次は「師」系。 国家資格系なのでしょうか。
教師(教員?)
医師
看護師
助産師
臨床検査技師
放射線技師
理容師
美容師
薬剤師
調教師
漫才師
奇術師
作家でも小説家でも組織に所属する記者でもない著述業のヒトはほぼ「ライター」になっているようです。
翻訳家・翻訳者もカタカナ系に逃げるしかないのかもしれません。
トランスレータとか、リンギストとか。
今回は、士業のお仕事は華麗にスルーさせていただきます……じゃなくてスルーします。
通訳者とはいうけど、通訳家とはいわないですよね。
何故なんだろう。
日本語は難しいです。
ちょっと脱線しますが……。読書ログです。
「奴隷会計 支配とマネジメント」 ACCOUNTING FOR SLAVERY
著者 ケイトリン・ローゼンタール
訳者 川添節子
という書籍を読みました。
(https://www.msz.co.jp/book/detail/09524/)
みすず書房
2022年8月
非常に興味深い本でした。 やめることができないサラリーマンは、奴隷と同じだと思います。 アメリカの奴隷解放後、元奴隷だった労働者は相変わらず経済的には厳しい状態に置かれていました。放浪することや移動することは引き続き制限されていたのですが、仕事をやめる自由だけは権利として獲得したのです。
まあ作業場で働く「職人」が工場で働く「労働者」になると、技能や成果ではなく時間を売ることになるのですが。
私は会社員を辞めて6年。時間ではなく技能か成果を売って生活しているなあという実感だけはあります。
実際には私の時間を買ってくれる事業者はいくらでもありそうなのだが、技能や成果はそう簡単に売れるものではありません。
感動したのは、この本の翻訳です。 わかりやすいし、「なんですかこの文章?」という悪文もありません。
すごいです。私も、いつかこんな翻訳ができるようになりたいです。さいごまで無理かもしれませんが。
訳者の川添節子さんの略歴が本の末尾に記されていますが、いきなり「翻訳家」となっています。
「訳者略歴」と言っておきながら、最初に「翻訳家」です。
「翻訳家」と「翻訳者」の間には、何があるのでしょうか?
さて、チャンドラーの著書、トラブルイズマイビジネスですが、書籍のタイトルとしてはどう和訳するのがいいでしょうかね。東京創元社のバージョンが「事件屋稼業」というものだったはずです。これはすごいですね。もう神の領域だと思います。